記憶
interview

Q:オファーを受けた時の感想は?

「ものすごく大変だなと…。これだけ出ずっぱりの連ドラっていうのもそうないだろうって思います。主人公が病気になっていくという話が主軸としてありながら、いろんな枝葉がついてストーリー展開をしていって、ほぼ1話完結みたいな感じで進んでいく流れになっていますから1話ごとに山がある。でも12話という流れの中にも大きな波があるので、これは生半可な気持ちで受けられる仕事ではないな、というのが正直な感想でした」

Q:台本を読んだ時の印象は?

「息を抜く瞬間がないというか、普通、連ドラをやっていてもどこか他人に任せられるところがあるんですけど、そういうところがない作品は本当に珍しいですよね。必ず自分が何かに絡んでいるので、撮影していると想像していた以上に大変です」

Q:役柄について

「やり手の弁護士で、彼は幼い頃からの反骨心みたいなものから弁護士という職業について『弁護士の基本は依頼人の利益を最優先する』という考えの人間です。それまでいろんなものを装い、核を隠しながらきた人間が、アルツハイマー病を患うことによってその核の周りについた衣を剥がされていき、最終的には生まれてきたままの自分になっていく。ある意味、人間として再生していく人物だと感じました」

Q:役作りで気をつけたところ、大切にしたところは?

「やっぱり嫌なところではうんと嫌な人間でありたいなと思っています。でも根本にある優しさってものだけは失わないんじゃなくて、失えない自分がいるっていう。その葛藤を常に持っている人間でありたいなと思っています」

中井貴一
中井貴一

Q:リメイクするという点で意識したところはありますか?

「日本でも当然韓国の『記憶』をご覧になった方もいて、見比べられるわけですから、そういう意味では覚悟を持たなければいけないと思ってます。日本は島国だからか、他の言語のものを見た段階で、みんながそこにリアリティを感じなくていいっていう風に一本線を引けるんです。フィクションはフィクションとしてとらえてくれる。ところが日本語でやることによってドラマはフィクションなのにどこかにノンフィクションを重ねてくる傾向がある。だから、日本語でやっているドラマには『こんなことないよ』ってクレームがつくことがある。でも韓流など他国言語でやっているものにはどんなにオーバーなことがあってもこれはあるのかもしれないと認めてくれるお客さんがいる。自分も含めてそうですけど、そこの間を埋めなきゃならない。韓流を見た人たちが100%納得できるものを日本人としてのやり方でお送りしなきゃいけないわけで、今まで向こうでは許されてる大きな芝居を僕が同じようにやったら、『ちょっとどうなのそれ?』って言われるので、そこはとても注意しながら、でもこっちの方が面白かったと1人でも2人でも言って頂けるようにしなきゃいけないなと思っています」

Q:共演者の方たちとお芝居をやってみての感想

「自分のことで精一杯で今までいろんなドラマをやってきましたけど、本当に余裕がなくて。本庄みたいに愛されてる人はいないって気がするんですね。これだけ酷いことをしていながら、元奥さんからも今の奥さんからも自分たちの部下からも好意的に思われてる。役をやりながら申し訳ないなと思いながら、でもそれぞれの俳優さんたちがそのまま役で接してくれている感じがして、そういう意味ではとっても上手くいってると思いますし、優香さんの優しさだったり、天真爛漫さだったり、そういうものが役を救ってくれてるなという時がありますね」

中井貴一

Q:もしも自分が徐々に記憶を失うとしたら残したいもの、大切にしたいものは何ですか?

「記憶をなくすとかなくさないということよりも、自分が50歳を過ぎて、僕がデビューした20代の頃に輝いていた先輩たちが80代になり命を落とされていくことが増えてきました。やっぱりそういう姿をみていると自分が何を残せるんだろうって思うんですよね。後輩たちに自分の存在を覚えておいて欲しいとは思わない、僕が死んだとしてもこの世の中は普通に動いていく。それはどんなに有名な人がお亡くなりになっても同じなわけだから、何かふとした時に後輩たちが『あの人がこう言っていたんだよね』って、『だからこれはやろうね』って一言でも思い出してくれる何かを残したい、と思うかな。それは役者として、なんておこがましいことは言えないのかもしれないけれど、男としてなのか人間としてなのか、何かワンワードでいいかなって気がしますね」

中井貴一

Q:ドラマのみどころは?

「アルツハイマー病はとても恐ろしい病気だと思います。それはいつか自分の記憶がなくなるという恐怖と闘いながら生きなきゃいけないという…。いつか命を失う恐怖よりも明日自分の目の前にいる人の事が分からなくなる、こんなに愛してるのに分からなくなるかもしれないという恐怖感は生殺しのような気がしてとても怖いと思います。でも、病というものをネガティヴに考えるより受け入れなければいけなくなった時に、自分についたいろんな垢を病が削り落としていってくれる。だから実際僕の周りでも病気になって話を伺った時に、肩ひじ張って生きてきたことが、病気になって何の意味があるんだ?って思ったって、今の方が自分らしく生きてる気がするっていう方が沢山いるんですよ。本庄もどこかすごく気を張って生きていたものが、家族という愛の中だけで生きる男になっていく。ある意味で悲劇ではなくて温かい思いでこの作品を見終わってもらえたら嬉しいなと思います」

Q:視聴者にメッセージを

「本当に良くできたドラマです。ホームドラマの要素もサスペンスの要素もいろんな要素をもった作品ですので、皆さんに1話1話飽きずにご覧頂けると思います。役者がやっていて大変だって感じないドラマは面白くないんです(笑)。今回それぞれみんな大変だと感じながらこの役を演じているのできっと面白くなると思います。是非ご覧ください」

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